小学教科書への疑問

子どもはちょうど、小学6年の社会科教科書で日本史を勉強しているみたいだ。*1子どもに聞くと習ったはずの大化の改新も知らないで困ったものだ。ある頁を開けると、2頁見開き一杯に平城京碁盤の目状の都市の鳥瞰図がありむちゃくちゃ立派だ。人口が十万。ちょっと多すぎるような気がしてぐぐると、ある人(寺崎保広教授)の意見は、「5~6万ほど」「10万人説は居住可能な免責に隈無く人が住んでいたという前提での計算である点が問題で」とあった。http://www.nara-u.ac.jp/daigaku/koho/mini/terasaki.html奈良大学

わたしが気になったのは聖徳太子のところ。

ゆうたさんは、大和朝廷の役人に十七条の憲法を示した、聖徳太子を調べることにした。

として1頁全部を使って聖徳太子を紹介している。次の頁が大化改新であるが、「聖徳太子がつくろうとした天皇を中心とする政治のしくみが、ここでできたのだな。」とゴシックでまとめられている。

上の子の中学の教科書*2を見ると

17条憲法を定めて役人の心がまえを示したといわれています。

とちょっと遠慮がちである。

それもそのはず、

近代史学の対象となりうる太子関連の第一次資料は皆無に等しく第二次資料としての『日本書紀』の記述が残存しているだけであった。あとは「天寿国繍帳」の銘文ぐらいしかない。

p4佐藤正英『聖徳太子の仏法』isbn:4061497227

という情況だからである。

佐藤氏は「太子非実在論」はますます激しくなるだろうと、(彼にとって)悲観的な予想を述べている。ではなぜ、小学校の教科書だけがこんなに力をこめて聖徳太子を記述するのだろうか。それはたぶん学習指導要領が命じて居るためだ。

 仏教伝来の後、聖徳太子が法隆寺を建て仏教を日本に定着させた、とだいたいそう教えられてきた。

しかしそれは6世紀終~7世紀初の思想状況に対する正確な理解ではない。

釈迦仏を祀るとは、ひとびとにとって、見知らない新たな<たま>神を祀ることにほかならなかった。(p42同上)

お握りにライスバーガーとラベルをはっただけみたいな漢字で、「仏(ほとけ)がみ」というラベルの神がやってきたにすぎない。

以上わたしの乏しい知識においても、小学校教科書は充分偏向しているように思われた。

参考:

http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/2663/shotoku/iesu.htm 以下(大山誠一『<聖徳太子>の誕生』を批判する立場の文章)

http://homepage1.nifty.com/sawarabi/shoutokutaishi.htm 「聖徳太子」はいなかった

*1:見たのは大阪書籍のもの。

*2:大阪書籍

(7)への応答(7/9追記)

#drmccoy 野原さん、ご自身が言った事「皇軍の強制が原因」が正しいというなら、「具体的にどう強制したのか」答えてください。

(野原)「具体的な強制」がなければ、強制ではない。というのは論理的に間違っています。したがって質問に答える必要を認めません。

太初に日神があって、

イザナキ、イザナミが国生みをしたのは天神の命を受けてであるという要素は、古事記と日本書紀の一書一に出てくる。

これは新しい追加要素だと思う人もいるかも知れない。けれども、このような要素は沖縄の創造型神話にもあるのだ。

p75 大林太良『日本神話の起源』徳間文庫 1990年

オモロ「昔始めからのふし」に、次のような話があるという。

 太初に日神があって、伏して下界を見ると、島のようなものがあったので、アマミキヨ、シネリキヨの二神に詔して、これを治めしめることにした。二神は天降って数々の島をつくり、日神はさらに詔して、そこに天つ民をつくらずに国つ民をつくらせた。(同上)

次に、新井白石は次のようなアイヌ神話を記録している、ということのようだ。

 蝦夷島の世のはじめに、老夫婦が来たり住み、食物が乏しいので苦しんでいた。夢に神が現れ、二人に、これをもって海をかきさぐって食物を獲よと教えた。目が覚めて、かたわらをみると、舟のかいがあった。教えに従って、それで海をさぐると、白く泡立つ下から魚がかずかず浮かび出たので、捕らえて食物としたのが始まりで、今の世までその魚が主な食料となった。ニシンがそれである。老夫婦の子孫がふえて、今日のエゾが島の人々になり、二人はその住んでいた江刺の地に神としてまつられ、老夫を恵比須といい、老婦を姥の神という。

(p76 同上)

アイヌ神話とはいっても、これは日本から入ったものだろう。「日本のオノゴロジマ神話の異伝あるいは派生物とみられる。というのが大林さんの見解。生活苦のリアルさみたいな話になっているのは作られた時代が新しいからだろうか、興味深い。

於是天神諸命以(天神の命を以て)

二神が 立天浮橋而 指下其沼矛以畫者 鹽許袁呂許袁呂迩畫鳴而 引上時、 自其矛末垂落之鹽累積 成嶋。是淤能碁呂嶋。

つまり、この三つの話においてはいずれも、「天神」とそれに命じられる神との関係は存在する。だが「海をかき回して」「島を作る」の、前半だけはアイヌにあるが、後半は古事記にしかない、ということになります。

「われわれ」の形成

たとえば、「もはや戦後ではない」と日本国内で言われ始めた前後に、軍人恩給は復活し(1953年)国家行事として行う全国戦没者追悼式は「戦争に倒れた国民の尊い犠牲によって今日の平和と発展がもたらされた」ことを記念するためだと、閣議決定され、同時に千円札の肖像画が聖徳太子から伊藤博文に変更される(1963年)。こうした動きは、1964年に戦没者受勲が天皇誕生日に「再開」したことに顕著に表れているように、日本国が戦後、戦争をなんらかの形で国民のあいだに継承させようとする意志に貫かれている。

(岡野 p172 同書)

戦死者の半分は餓死者である。つまり彼らは兵士として(戦い)死んだわけではなく、国家の当然の義務としての糧秣供給を怠ったことによる死、短く言えば日本国家に殺されたと言える。などなどといくら言っても、軍人恩給制により金が出されればそれを拒否しようと思って実行する人はごくわずかしかいないのは当然だ。そこに思想的な課題があり注目すべきだと力説する思想家政治勢力も存在しなかったわけだからね。

(参考 http://d.hatena.ne.jp/noharra/20050913#p2

60年掛けてジッリジジッリ力ずくで成立させてきた日本(戦前)=日本という同一律。どうあしらったらよいものだろう?

SSID

最近は、パソコンのことを何も知らない人でも、ADSLとかにして無線でノートパソコンと繋ぐ、というのがむしろ普通なのかもしれない。ところがこの接続がけっこう難しい。知人に頼まれちょっと繋ぎに行った。難しい原因は当然ながらセキュリティ確保対策だ。モデムとパソコンの双方に二つのパスワード(と言って良いのか)を設定する。モデム側の設定方法は附属CDで丁寧に説明してあるが、パソコンについてはメーカーによって違うらしくなかなか設定できなかった。それにしてもこれだけのことのために、2時間半もかかるとはわたしもたいてい無能だね。

ところで、超初級者はせっかくのパソコンをほとんど使えていないことが多くもったいない。どうすればよいのか。もちろんパソコンなど不要だから使う必要ないと言われればそれまでだが。

自覚のクライマックスで死を与える

ぼくは犠牲たることを回避しない。自己を捨てることをこばまない。しかしそのprocessとして自己を無にすることを嫌うのだ。それを是認できないのだmartyr(殉教)ないし犠牲は、自覚のクライマックスでなされるべきだ。自己喪失の極限が犠牲たることに、なんの意味があろうか。

(林尹夫 p330『ねじ曲げられた桜』より)

林尹夫は10/30付けで紹介した佐々木八郎などと同じく「大東亜戦争」の最後に特攻として散っていった若きインテリ兵である。45年7月撃墜された。

彼が過ごしていた海軍基地では、読書そのものが禁止されるという馬鹿げた事態が起こった。上の文章はそのような情況への怒りである。

愚劣なりし日本よ

優柔不断なる日本よ

彼は資本主義と軍国主義の病に侵された日本の破滅を願った。しかし彼は「新たな日本を創るため」特攻機に乗ることをためらわなかった。

<死へとかかわる存在>においてこそ、<そのつど私のものであるという性格>の自己自身が構成され、それ自身に到来し、その置き換え不可能性へと到来するのだ。自己自身の自身は死によって与えられる。

(p96デリダ『死を与える』のハイデッガーの論理の解説の部分より)

彼一個の死を、60年も経ってから、自らを国家に捧げけたのだとして、安物の国家主義の昂進の方向へ利用してしまう奴らを叩きつぶせ!

なぜこんなに、すらすらと平気に

私は学校で、万葉の講義をしているが、時々、なぜこんなに、すらすらと平気に、講義をすることが出来るか、と不思議に思うことがある。先達諸家の恩に感謝する事は勿論であるが、此処に疑いがある。教えながら、釈きながら居る人の態度として、懐疑的であるというのは、困ったものであるが、事実、日本の古い言葉・文章の意味というものは、そう易々と釈けるものではなさそうだ。時代により、又場所によって、絶えず浮動し、漂流しているのである。然るに、昔からその言葉には、一定の伝統的な解釈がついていて、後世の人はそれに無条件に従うているのである。私は、これ程無意味な事はないと考える。

(p149-150折口信夫「神道に現れた民族論理」『全集3巻』isbn:4122002761