春の夜の夢の浮き橋とだえして嶺に別るる横雲の空
(藤原定家)
塚本邦雄さんの本が一冊だけあったので、引用してみた。
「ぴたりときまつたゆるぎのない夢幻の定着」と彼は評している。
「この歌は完璧な形而上学であり」とも。(p165『定家百首』河出文庫)
立ちのぼるみなみの果に雲はあれどてる日くまなき頃の虚(おほぞら)
(藤原定家)*1
不思議な歌である。大きな空がすべて日光に覆われている夏である。だが邦雄の読みは「これは鈍色一色に塗りつぶされ、一点白い太陽が輝いているだけの、重い一首」となる。ふむ。
*1:同書p42