Hatena::Groupfrom1969

仮装

仮装

    仮装

 仮装の概念の原初形態は、すでに66年までに発表された〈六甲〉とりわけ第五章に示されており、その後に出現してくる全共闘運動の先駆形態の一つといってもよいが、それと共に、表現や存在のテーマを再把握~再構成していく方法的としての本質を内包しており、< >の生誕や応用に深くかかわっている。

 このことは、70年代に入る前後から、数人の詩人たちにも気付かれていた。

中でも、「仮装は存在の函数である」という佐々木幹郎の戦後詩史論からの指摘と、これに対する「仮装概念と接している存在の違法性領域に注目せよ」という北川透の指摘は、それぞれ現在も重要な意味をもっている。(批評集γ篇の構成35、38参照)

 先に述べた全共闘運動において、仮装の概念を意識的に用いる例は、言語としては少なかったが、身体的な位相においては、仮装組織論の本質が絶えず共有されている感触があった。言語としての応用については、70年12月24日の神戸地裁の法廷で配布されたビラ<仮装としての被告とはなにか>(表現集,続等に掲載)をはじめとして、その後、裁判所あての仮装被告団の表現、法廷を含む場における仮装証言等として現在まで展開されてきている。(仮装証言については、73年11月、74年11月の同志社大学における発言が重要である。発言集に掲載)仮装の概念は、その本質から応用しやすい面があり、仮装労働、仮装乗車、仮装郵便なとの試みにおいて大きい成果を上げてきている。

しかし、「仮装のテーマというのは本来、存在の根拠を交換することは可能かという問いでもあり」(75年l1月の同志社大学における発言。発言集に収録)、「仮装を実現しうる関係の実現は、奇跡に近い」(87年12月の京都府立勤労会館における発言。未収録)のであるということは、応用の際につねに想起されるべきであろう。これは、心構えとしてよりも、他者や対象の側から同じ水準の仮装の試みをなしうる回路をどのように作ろうとしているのか、その時の圧倒的な困難を、かかわりのある関係の総体にどのように開示~止揚していくのか、という原則的かつ情況的な問いとして強調しておきたい。

 なお、仮装を考える場合、ある状態が、あらかじめ存在し、それに仮装することも、しないことも選択が自由であるという把握の仕方から自由になっているべきであろう。むしろ、私たちは、常に何かから仮装としての偏差を強いられているのであり、強いる力に気付かない時、また気付いても力の範囲内に留まり、その状態を放置したり居直ったりする時に生じる自他への抑圧・・・これを明確にとらえ、転倒していく媒介としてこそ、仮装概念は普遍的な応用概念として成立しうる。

 表現論として、さらにのべると、仮装を表現方法として用いる場合、表現主体の不確定化のために用いることから出発することか多いが、仮装の状態を他者に共有させ、自らもその状態を基本にして振舞うときに示唆される方向に注目してのべるならば、本来、不確定な主体に不確定な方法~ジャンルを引き寄せる根拠の追求や、未踏の表現~ジャンルへの跳躍の試みとして用いたり、評価したりすべきであろう。

 前記の不確定化ないし不確定性は、表現主体においてのみならず、客体としての現実過程においても生成してきており、ここには、ある世界史的な力が働いているであろうが、一つの仮説を提起すると、表現の主体と客体の不確定性の相乗積は一定の範囲内にあり、この一定度が情況の枠ではないか。また、この枠の内部における<事実>は一つでもなければ固定されたものでもなく、いわば仮装の本質を関係性の変移~変換として実現させる度合に応じて<事実>も無限に変移~変換するのではないか。この仮説を、委託や非存在や宙吊りやフィクション(それぞれの項目参照)との関連において、より具体的に展開していきたい。

 また、前記の仮説は、対象として人間を前提としているが、次のように前提からはみ出す場合がある。

 「文字や発語の区分を固定化せず、これらを仮装する<条件>と呼吸感覚を発見~再構成しつつ、前史的拘束性からの飛翔を目ざしたい。」(「発言集の< >化について」)

 この場合の仮装性を規定してくる<枠>に相当するものは、前記の仮説における枠を、いわば主体・客体を結ぶ軸に関して回転するときに得られるのではないか、という仮説の仮説も付記しておく。


 註ー権力的な仮装概念の使用例。

  (1)暴カ行為等処罰ニ関スル法律・第一条「団体モシクハ多衆ヲ仮装シテ威カヲ示シ・・・タル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス」

  (2)現場検証において、警察官が仮装被疑者として行為し、それを証拠写真として撮影することかある。批評集α篇84年l2月17日の事件の項目参照。

  (3)「松下昇を含む仮装被告(団)」という文書の表現主体から、傍線部分を削除せよという検察官の要求と、裁判官による削除、および異議申し立て棄却決定。

時の楔通信第<二>号15~20ぺージ参照。

* はてなダイアリーキーワード:仮装