プロジェクト 「猪」 御中

 94年5月10日  松下 昇



 4月25日付の執筆依頼状と参考資料が、締切りとされる5月10日の直前に神戸大学庶務課から転送されてきました。貴事務局は執筆依頼を、まず貴事務局が「造反教官」と評価する人の中で連絡先が確認できた十名あまりの人へ送り、その後、小林忠太郎氏の要請でこの依頼状を私へ送られたようですが、神戸大学気付で送られた理由は何でしょうか。おそらく私の連絡先としての住居が判らないまま、神戸大学気付で送ってみようと判断されたのであろうと推測しますが、責事務局からの郵便物が潜っている状況は次のようです。

 神戸大学は70年10月に私に対する懲戒免職処分を公表し、かつ、それ以前から非公然に告訴をおこない、多数の教職員に供述と証言を奨励しました。学内で活動を持続する私に対して71年4月に研究室を逆封鎖し、松下未宇(76年4月に6才で死去)のオモチャを合む多数の物品を留置し、現在まで返還していません。71年5月には大学構内立ち入り禁止を通告し、違反した場合の告訴を予告し、この通告は現在まで撤回されていません。今回の貴事務局からの郵便物は、私の活動の実績と神戸大学事務職員の偶然の好意によって転送されたとはいえ、私の住居(起訴状や保釈制限住居の記載としては、神戸市灘区赤松町一―一)は、検察庁による刑事裁判訴訟費用の未払いに対する強制執行に関連するドウカツに脅えた家主の明渡し要求などのために不確定であり、私も二十数年の無職状態と格闘しつつフリーの労働や活動をしているため不在が多く、郵便物が確実に届き、すぐに応答できる保証はありません。このような状況をご存じでないとしても貴事務局の位置からは止むを得ないかも知れませんが、ここに込められる問題は今回の企画に深く関わると考えて締切り当日にこれを書いています。

 前記の状況に込められる問題は今回の企画とどのように関わるか。貴事務局は、アンケートを元全共闘学生・元造反教師に届ける場合に、連絡可能性をどのように想定し、届ける試みをおこない、その結果を総括されているのでしょうか。これはアンケートヘの回答率や内容の分析と共に重要な問題であり、ぜひ公表していただきたいと思います。この問題への姿勢は、今回の企画に対する貴事務局の姿勢や、アンケート項目のレベルを映し出す鏡であると確信しています。元全共闘学生への連絡可能性については、神戸大学闘争に関わった人々についての私の模索から多くを語ることはできますが、それは私がこれまで自分でワープロを打ち、編集し、印刷し、配布してきたパンフレット群(特に神戸大学闘争史や討論記録など)で展開していますから、それらを読んでいただくことにし、ここでは元造反教師にしぼって、かつ連絡可能性にとどまらない方向で論じてみます。

 私は、自分が元造反教師としても見られることが多いとしても、自分が元造反教師であるとは考えていません。そのような概念規定や流通の仕方に異議があるのです。貴事務局の執筆依頼状には、“往時「大学」側から「学生」側に身を置き換えられた「造反教官」の方々”とありますが、私については、そのような変身はしていません。むしろ、私の表現や行為は、それより以前に開始されていた試みの具体化であり、69年前後に全共闘学生とも共闘したという方が正確です。全共闘学生の一部が私の側に身を置き換えてきたことはあるとしても…。貴事務局がすぐに連絡できるとして最初に発送された「造反教官」の顔触れは、私とは異質な方々が多数であり、私が形式的にではなく実質的な活動について連絡を取りうる人は含まれていないと率直にのべておきます。「造反教官」として、このような顔触れを想定される貴事務局の視点は、全共闘や大学闘争の把握の仕方と決して無関係ではないでしょう。今回の企画の意義を生かすためにも、あえてのべておきます。

 貴事務局が小林忠太郎氏の要請で補充的に発送(これ自体は適切であり感謝します。)された方々の範囲が不明のまま、これを書いており、今後ぜひ公表していただきたいと考えていますが、その範囲から少くとも逮捕・処分された佐藤氏(新潟大)、河村氏(関東学院大)、処分・起訴を受けた坂本氏(岡山大)、山本氏(徳島大)、竹本氏(京都大)が抜け落ちていないこと、郵便物が届いたこと、できれば応答があることを願っています。
 また、既に死去された高橋氏(京都大)、滝沢氏(九州大)、菅谷氏(都立大)、宮内氏(理科大)についても今回の企画に対してどのように反応されるかを想定しつつ、それぞれの苦闘の過程をふりかえるページをつくる必要もあるでしょう。

 アンケートの結果については、他に適任の方々が評価・解説されるでしょうから遠慮しておき、その代りに、私が企画主体であればアンケート項目に加え、応答したいテーマを記します。

 一つは、東大の安田講堂死守闘争で逮捕・起訴されたA氏とB氏がおり、A氏がその後大阪の地下街に開いた古書店に服役を終えたB氏がアルバイトとして入ったのですが、B氏が私の刊行するパンフレットを店頭に置こうとしたことなどを理由として解雇された事実を知っていますか?これについての意見をのべて下さい。他に類似例があれば知らせて下さい、というものです。

 もう一つは、横浜国大での自主講座を含むユニークな活動をしてきた五十嵐良雄氏が長い不安定な生活の後にやっと見つけた職場=(ある女子大)で御用組合を乗り越える組合結成に参加したのに対して、元東大全共闘幹部ら(現在は大学管理者)が身体的暴行を加えて辞職させた事実を知っていますか?これについての意見をのべて下さい。他に類似例があれば知らせて下さい、というものです。

 最後の一つは、前記の二つとは異なるレベルのもので、大学闘争や全共闘の概念を、これまで出現していない方向から新しく規定し、その生活・存在次元における具体的ヴィジョンを報告して下さい、というものです。

 それぞれについての資料や私の意見は、私が刊行してきた多くのパンフレットですでに公表してきていますが、既成の出版・販売ルートに慣れている人々の眼にはふれていないかも知れません。私あてに連絡するか、実験的に置いている新宿・模索舎へ出かければ入手できます。今回の企画を批判的に逆用させていただいて宣伝しておきます。
参考:「全共闘白書」奥付など
概念集・11 p7

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