松下昇~〈 〉闘争資料

2008-12-18

序文の哲学者

 語る声は「すでにあった」「すでに完結してしまった」という「すでに」時間性と「いまだ知らない」「いまだ完結していない」という「先駆けて」の時間性のあいだで不可避に引き裂かれる。『存在と時間』のハイデガーならば、自分自身に呼びかける良心の声に導かれた先駆的な決断によって、全体性は救い出される。だが、ヘーゲルにおいては「すでに」と「先駆けて」の二つの時間性は序文のなかで出会うことになる。


 序文とは一種の控えの間であって、そこでは、すでに始まってしまったこと、つまりそれは全体性としてしかありえないのだが、そういったものとの限界と境界線をめぐるネゴシエーションが行われるのである。

田崎英明 p178 isbn:4791711300


松下昇も 序文の哲学者である。

序文しか書けずに死んでしまった。そうかもしれない、生きること*1が本文でないのだとしたら。

*1:わたしが